それからしばらくしたころ。
おじいさんは縁側でまた「はぁ・・」とため息をついていました。
ハゲてた盆栽には新しい枝が出て、元気を取り戻しつつありました。
おじいさんも変わらず身体は元気な様子でしたが、表情が思わしくありません。
「ばあさんは、わしの分まで元気にしてくれてたんじゃな」
おじいさんの不治の病が嘘のように消えた騒ぎは、町中に広がりました。
そこに、「金の雫」へ行ったことがあるという青年の話も合わさって
こぞって 旅がてら 金の雫の祠へいくものたちもおりました。
ご近所さんからもお祝いの言葉を受け取り
ひと騒ぎが終わった頃、おばあさんが塞ぎ込むようになってしまいました。
おばあさんも、どうしてかわからないけど気持ちが落ち込んでしょうがないそうなのでした。
医者にみてもらうと、「心の病」と診断されました。
余命 いくつもないおじいさんを励ましながら、自分の寂しさも押し殺して
人一倍元気に動いていた反動が来ているのだそうでした。
おじいさんはおばあさんと出掛けたかった楽しみな気持ちを抑えつつ、
これまでおばあさんがしてくれていたことをひとつひとつ思い返していました。
ピピっ ピピっ
おじいさんが元気がないことを察知できるのか、またピー助がやってきました。
今回は お守りはついていませんでしたが、しきりに ピピッピピッと鳴くのでした。
「どうしたんじゃ?お腹でも空いたのかい?」
そうおじいさんがいうと、庭先から一人の坊主頭の少年が入ってきたのでした。
「こ、こんにちは・・」
少年がいうと、おじいさんも挨拶をしました。
「怪しいものじゃないんです、僕は その鳥に連れられるようにしてきました。おじいさん、
僕 金の雫という祠からやってきたんです。その鳥は、その祠にいて、僕にこれを持ってくるように 言ってたように思うんです。」
そう少年がいうと、巾着を取り出しました。巾着には「金の雫」と書いてありました。
「これは、金の雫の巾着です。中に、雫をためた露が入っています。きっと誰か必要な方がいらっしゃるのかもしれません。」
おじいさんは そう聞くと、少年におばあさんの話をしました。
少年は迷わず、「おばあさんに飲んでもらいましょう」と言いました。
おばあさんは巾着の中の金の雫を手ですくい口に含みました。
しばらく 味わうように ぼうっとしていたかと思うと、
おばあさんは「おじいさん、こりゃ本当だね、なんだか 身体が軽くなってきたよ」と言いました。
おじいさんは 言葉よりも先に、久しぶりに聞くおばあさんのハツラツとした声を聞いて 嬉し涙が出ました。
「ばあさん、よかった。本当、よかった」
少年も 涙を流しながら、みんなで喜び合ったのでした。