これは 村1番の美人娘と息子を結婚させて 満足げにしていた村長のおはなし。
「はぁ・・最近なんだか身体が疲れるし、目が霞むのぅ」
屋敷の縁側に座っていた村長さんはそう言って、目を擦るのでした。
「村長はずっと甘いものを摂りすぎですし、もっと運動してください」
村長の隣に腰いた医者が言いました。
その言葉に 村長はグッと黙ってしまいました。
しばらくして医者が去ると、彼が使っていた座布団に目をやりました。
布はじがほつれて、中の綿が出てきそうでした。
村長は少々しかめつらをして、またため息をつきました。
村長には 年をとっても大変可愛らしく、
料理も裁縫も上手な素晴らしい奥さんがおりましたが、
数年前から 仲が悪くなってしまいました。
それはちょうど、村長が足を悪くして 動くのが嫌になり
食べてばかりいるようになった頃のことです。
言い争いが増えて、奥さんは誰も住んでいなかった離れに入り浸るようになりました。
今思えば、あの頃からいつも疲労感がつきまとい、イライラしていたのかもしれません。
滅多に顔を合わせなくなってしまった奥さんの態度に
はじめは突っぱねていた村長でしたが、やはり寂しく感じていました。
医者の言いつけ通り、村を散歩することにしました。
村のはずれの方まで歩いていると、突然 空の上から 何か冷たいものがが村長の肩に降ってきました。
「なんじゃ・・?」と見上げると、
ポツポツ、トトッ
雫の数滴が口に入り、「な、なんだ、これはっ‥」と村長は驚いて吐き出すようにしましたが、
驚きのあまり飲み込んでしまいました。
「む・・まずくない」
そういうと、村長はそのまま家へ帰っていきました。
その日の夜、村長は不思議と身体が軽くなっていることに気づきました。
「いつもは運動すると疲れてしまうのにのぅ」と驚きました。
調子がいいので 次の日も同じ道を散歩することにしました。
するとまた、同じあたりで雫が落ちてきて、口に数滴入っていくのでした。
次の日も、次の日も、そのまた次の日も 同じようにすると、
村長は みるみるうちに 身体が軽く、生き生きするようになりました。
運動によって痩せただけでなく、医者も驚くような速さで 糖の病気が治っていたのでした。
また、目の霞みも感じられなくなった頃、村長の気持ちにも変化が起きていました。
コンコン
村長は、離れの家の戸を叩いていました。
奥さんがでてきて、村長の姿をみて驚きました。
村長がこの離れに来たこと自体も驚きましたし、見た目も表情も全く違って見えて、
いえ、奥さんが知っていた昔の村長を思い出すような姿にも驚いたのでした。
それから2人は、また仲睦まじく一緒に暮らすようになりました。
座布団はいつもキチンと繕われるようになり、
屋敷の縁側では 2人で一緒にお茶を飲む姿が見かけられるようになりましたとさ。